孤高の画家・田中一村の傑作が集結

 「深みへ」展のハイライトの一つが、近年、注目を集める孤高の画家・田中一村だ。

 明治41年生まれ。幼い頃から画才に恵まれ、将来を嘱望され、東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学するも2カ月余りで退学。中央画壇から距離を置き、独学で研鑽を積み、50歳の時に全てを捨てて千葉から奄美に移り、清貧のなかで、亜熱帯の動植物を描き、独自の画境を切り開いた。

 一村の代表作が集まるダイニングホールは、南国植物を育てるウィンター・ガーデンに面しており、冬の間もトロピカルな緑樹を楽しみたい貴族の志向が窺われる。

 一村の作品を展示する特注ケースはモダンで、一村の絵の魅力である強い生命力、大胆なフォルム、力強い造形性が際立つ。

 長谷川氏は、この美しいウィンター・ガーデンを見た時、ここに展示するのは田中一村しかない、と確信したという。

 ウィンター・ガーデンを背にしたコーナーでは、一村が晩年に至る20年近くを過ごした奄美の自然や、一村が愛した風景、生活のために染色工として働いた紬工場などを、現地で収録した音声とともに美しい映像で紹介。

 お金の対価としての“商品”ではなく、自身を代表する“芸術作品”を描くことを求め、求道者のように画業に邁進した一村は、いつか千葉で個展を開くことを願いながら、昭和52年、69年の生涯を奄美で閉じる。

 残念ながら、その夢を果たすことはできなかったが、40年後、パリの地で展覧されることを知ったら、さぞかし驚いたことだろう……。

 このほか、伊藤若冲、柴田是真、円空、白隠、仙厓、葛飾北斎、パブロ・ピカソ、ポール・ゴーギャン、澤田真一、アンヌ・ロール・サクリスト、田中泯+原口典之、杉本博司、真鍋大度+2bit、平岡良、SANAA、知里幸恵、千葉伸彦、松本望睦、梅沢英樹、ジュスティーヌ・エマール+森山未來、名和晃平の各氏による作品を展示。

 時代を超え、国境を超え、日本に脈々と引き継がれている美意識を再確認できる「深みへ」展はパリで大きな反響を呼んだ。

「ジャポニスム2018:響きあう魂」

https://japonismes.org/

景山由美子

伊藤若冲を始めとする江戸絵画コレクター。株式会社景和 代表取締役。出版社での編集職、IT企業のコンテンツプロデューサーを経て起業。古美術を扱う傍ら、美術関係の執筆・編集のほか、若冲をテーマにした茶会や鑑賞会を主催。国内外の展覧会への出品や講演を通して、アートの世界観や作者の想いを伝えるべく、日々奔走中。

Feature

パリを彩る日本文化の祭典
「ジャポニスム2018」

文・撮影=景山由美子