オーケストラが忙しくて殆ど家にはおらず、私達子供の教育に関してはかなり楽観的で無頓着だったリョウコ。その割にテレビの視聴や漫画などの娯楽に対する考え方はやたらと厳しかった。子供のころ、「テレビばっかり見ていると、今にしっぽが生えてくる」というCMソングが流行ったが、当時はそれくらい子供がテレビを見る事に寛容になれない人達がたくさんいて、リョウコもそんな一人だった。

 基本的に我が家のテレビ事情は、朝のNHKニュースと連続テレビ小説のようなリョウコが見たい番組、日曜日の夜の「サザエさん」からアニメ「世界名作劇場」までが許される範囲だった。そんな規制を掛けられていたお陰で、彼女がいない時はもうなんでもあり。何事もそうだが、開けてはいけないと言われている蓋はじゃんじゃん開けるためにある。

 リョウコが特に嫌がっていたのは芸能系のバラエティ番組だが、中でもドリフターズの「8時だョ! 全員集合」は見る事を絶対的に禁じられていた。欧州ナイズされた家族とカトリック系ミッションスクール、クラシック音楽に花森安治といった彼女を構成している細胞は、賑やかでオバカな人達を受け付けないものになっていたのだろう。

 リョウコの「8時だョ!」に対しての過剰なまでのスタンスは、逆に私の好奇心をことごとく刺激し、気がつけば私はクラスで一番ドリフが詳しい子供になった。「8時だョ!」で仕込んだネタを友達の前で披露して笑わせるのが生き甲斐になっていた。ある日東京から彼女の父である得志郎が訪ねて来た時、彼も交えて「8時だョ!」を大笑いしながら見ている最中にリョウコが帰ってきてしまった事があった。テレビの前でゲラゲラ笑う私達が眼に入った瞬間、リョウコは絶望と失意に充ち満ちた表情で我々を牽制したが、得志郎は「リョウコちゃんもこちらにきて見てごらんよ、実に面白いよ!」と言い放った。

 リョウコがドリフに対し諦観の構えを見せるようになったのは、それがきっかけだった。


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