布団をかぶって演じた
「ひとりミュージカル」

「ピアノと一緒に作曲も習っていて、子供のころからとにかく空想するのが好きでした。よく覚えているのは、寝室で父と母にはさまれて寝ていたんですが、二人が来る前に布団をかぶって『ひとりミュージカル』をやっていたんですよ。日によってストーリーが変わるんですが……両親がくるとすぐに寝たふりをするんですけどね。一度見つかってしまって『気持ち悪いなぁ』と笑われてしまいました。夜がとにかく大好きで。怪しさと神秘があって……窓から月を見るのが好きで、いつも『誰か私を連れ去ってくれないかなぁ……』と思いながら夜空をながめていました」

 ユニークな感受性をもつ糸音少女に大きな影響を与えた男性が二人いた。ひとりは彼女の父。もうひとりはピアニストのラン・ランだった。

「父は元ジャズ・ポップスシンガーで、今でも一度きりの人生でまだまだどんなことが出来るか挑戦しようとしている人。世界で一番尊敬しているし、何かに縛られているわけではないのに、単に自由に生きているのでもない。自分の父でいてくれてよかったと思うし、本当に素敵だなって思いますね。もうひとり尊敬しているのは、小学4年生のときにマスタークラスで教えてくれたピアニストのラン・ラン。何を教えてもらったのかということより、ラン・ランの奏でる音が音楽の喜びにあふれていて、彼自身が音楽なんだと感動しました。ちょうどその頃長時間練習することが苦痛になり始め『将来は花屋さんかシェフになりたい』なんて言ってましたから、ラン・ランがまたピアノに向かわせてくれたんです」

2018.07.25(水)
文=小田島久恵
撮影=深野未季