キンドーベーカリーが販売する、彩り鮮やかな昔ながらの「タップカム」。焼かれていない皮が餅の白色タイプもある

 旧暦の8月15日は中秋節。2012年の新暦では、9月30日がその日にあたる。中秋節は中国文化圏に広く伝わる節句のひとつで、中国文化の影響を色濃く受けるベトナムでも盛大に祝われる。そして、その日に欠かせない食べ物が、丸くポテっとした姿が愛らしい「月餅」だ。

 ベトナムの月餅は主にベーカリーやホテルで売り出され、特に大手ベーカリー「キンドー」社のものが有名だ。餡にはさまざまな具材が使われるが、「タップカム」と呼ばれるミックスタイプが一般的で人気が高い。しかし、甘い小豆餡などを使った日本の月餅や饅頭を想像しつつほおばると……中には月に見立てたアヒルの卵黄の塩漬けや豚肉、ナッツがぎっしり! 脂っこく、肉っぽく、さらに塩味と、予想外の味に驚いてしまう。

 そんなベトナムの肉入り月餅だが、最近ではその独特の味を苦手とするベトナム人も増えてきている。そこで「パーク ハイアット サイゴン」や「シェラトン・サイゴン ホテル&タワーズ」、「レジェンドホテル・サイゴン」「ホテル エクアトリアル ホーチミンシティ」などの高級ホテルでは、伝統の味を現代風にアレンジした、より食べやすく、ちょっぴりお洒落なオリジナル・モダン月餅を発売。和や洋をとりいれたデザート月餅などさまざまなバリエーションがあるだけでなく、味も毎年変わるため、「今年はどんな味だろう?」と、ちょっとしたワクワク感も楽しませてくれる。

ホテル エクアトリアルのモダン月餅。見た目は普通の月餅だが、味はそれぞれ「エスプレッソ&ウォールナッツ」、「ティラミス」、「チョコクランベリー」(手前から時計回り)

<次のページ> 近年では贈答品としても人気の月餅

text&photographs:Noriaki Sugita