立っている者は母(リョウコ)でも使え!

ヤマザキマリ

ベストセラー『テルマエ・ロマエ』の著者・ヤマザキマリさん。『ルミとマヤとその周辺』などに登場する美しい母親・リョウコさんが、大好きな音楽の仕事をしながら、2人の娘をどのように育ててきたかをつづる、インパクト大のボーダーレス子育てエッセイ。「こんなたくましいお母さんになりたい!」と大好評です。(不定期更新)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

 私が小学校に上がる時、リョウコは実家から私を神奈川に戻すように促されていた。北海道へ移住を決めたことをきっかけに、半ば勘当状態になっていたリョウコと祖父母のぎこちない関係も、私と妹が育つにつれて意固地になったままではいられない現実があった。かつて、リョウコに乳母付きで登下校させ、友達の家にすら遊びに行かせず、とにかく過保護に娘を育てた祖父母には、私達孫娘が北海道の田舎で、野蛮人化していくのをみすみす放っておくわけにはいかなかったらしい。

 しかし、リョウコはそれを頑に断った。野山で男の子達と猿のようにはしゃぎ回り、虫や小動物を捕まえることを悦びとしている娘を、しおらしいお嬢様に更生するなんて絶対無理だと確信していたからだ。それに加えて、リョウコは自分に叶わなかった自由を、娘が謳歌している姿を見続けていたかったのだろう。例えば学校で私がいじめられたり、男の子達と取っ組み合いの喧嘩をしていても、リョウコは不安な顔を見せたことがない。むしろ傷ついたり悩んだりする私をニヤニヤ眺めながら「学校が嫌なら別に行かなくてもいいのよ。好きにしなさい」などと言う時すらあった。その毅然とした態度には、学校を拒絶することが私の不平不満や悩みの解決に結びつくわけではない、と諭す効果があった。

 仕事柄、定まった休みのなかったリョウコは、たまのオフの日には私達に学校を休ませ、近隣の湖や山や森へドライブに連れて行ってくれた。長めの演奏旅行の折には何日間も娘達を同行させることもあった。母が煽動する「ずる休み」だが、教師達もリョウコの特異な職業を慮ってか、反論されることはなかったようだ。私達はリョウコに連れられて、様々な環境の中で、いくつもの一生大切にできる掛け替えのない思い出を作ることができた。幼い私達に「学校という狭い社会だけが世界じゃない」と確信できる機会を、それなりの勇気を持っていくつも創ってくれたことは、今でもとても有り難かったと思っている。

    1 / 1

ヤマザキマリ 近況

新連載が始まりました。「グランドジャンプ」(集英社)では「オリンピア・キュクロス」という、古代ギリシャの青年が遥かな時を超えて、高度経済成長時代の1964年の東京オリンピックにやってくるというマンガを。JALの機内誌「スカイワード」では「ヤマザキマリの逍遥録」という、世界各国で見てきたことや体験したことをイラストつきのエッセイにして連載しています。そしてインスタもやっています。ぜひ!
https://www.instagram.com/thermariyamazaki/

プロフィール

1967年東京都出身。17歳の時、絵の勉強のためフィレンツェに留学。海外生活の中、マンガを描き始める。その後、中東、ポルトガル、シカゴへ移住し、現在は北イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)でマンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。著書に『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共著、新潮社)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『男性論 ECCE HOMO』(文春新書)など多数。

ブログhttp://moretsu.exblog.jp

連載コミックエッセイ

もっと見る

ページの上部へ