「潮風」「歌」に振られた意外なルビ

クリス・レア『ひとりぼっちの渚』(1979年)

頬をなでる潮風(バラード)は、いつも君との歌(メモリー)だった。
だから、僕はきょうもここへ来てしまう……。

 続いてご紹介するのは、ハスキー・ヴォイスが印象的な英国のシンガーソングライター、クリス・レアが1979年に制作した2ndアルバム。

 AORファンには後年の『オン・ザ・ビーチ』(1986年)や『ダンシング・ウィズ・ストレンジャー』(1987年)の方が広く知られていると思うが、今回はこの『ひとりぼっちの渚』に注目したい。

 「潮風」を「バラード」、「歌」を「メモリー」と読ませる離れ業をやってのけており、AORの帯界では一二を争う、クセがすごいパターンだ。

 ここまでくると、ルビは読み方を示すものではなく、文章に立体感を加えるためのものとして使用され、読み手に何ともセンチメンタルな読後感をもたらしてくれる。

 個人的には、「歌」に「メロディー」とルビを振る過程で「メモリー」とする案を思い付いたのではないか、という予想だ。

2018.03.22(木)
文=福田直木(ブルー・ペパーズ)
撮影=平松市聖