高級スーパーマーケット、紀ノ国屋。

 わたしの紀ノ国屋の思い出といえば、フォアグラ事件である。当時中学生だったわたしは、テレビか何かでフォアグラを知り、親に「フォアグラが食べたい!」と申し出た。常識的な親だったら「じゃあ今度フランス料理屋へ連れていってあげようか」と提案があるのかもしれない。うちの場合「お母さんたちもよくわからない。お金あげるから自分で買って来たら」と言ったのだ。そして父親の「紀ノ国屋なら高級スーパーだから売ってるんじゃないか」という情報をもとに、わたしは小さなフォアグラの塊を買ってもらった。

 フォアグラが手にはいったー! 嬉しくて、わたしは同級生のみおちゃんにもぜひ食べさせたいと思った。みおちゃんと、フォアグラってきっとおいしいんだろうねと話をしていたからだ。わたしは小さなフォアグラをさらに小さく切ってラップに包み、ポケットにいれて自転車に乗った。みおちゃんの家までは自転車で5分ちょっと。ポケットの中は暖かい。さらに自転車をこぐことによって、ポケットの中は擦れてよりいっそう暖かくなっていくのだった。嫌な予感がしませんか。そう、みおちゃん宅で「フォアグラもってきたよ!」と自慢気にポケットからだしたとき、フォアグラはドロドロに溶けて液状と化していた……。ガーン!! あまりのショックのせいで、その後の記憶がない。残ったフォアグラをどのように食したかも覚えていない。この事件により、高級スーパーで売ってるものはわたしの手には負えないという記憶が深く刻まれた。

 さて、そんな高嶺の花の紀ノ国屋で、普通に買い物をしている人たちに注目してみた。わたしのように気張っている者ではなく、ごく普通に日常の食事用に買い物している人たちのことだ。

 目立つのは、個性的なおばさまである。セレブなマダムというよりは個性的なファッションで、デザイナーとかブティック経営とか、クリエイティブなだんなさんがいそうなおばさまたちだ。そんなおばさまたちは、ブロックのパルメザンチーズとか枝付きレーズンとか他のスーパーでは手に入らなそうなものを中心に少量買っている。わたしが気になるのはその上をいく、超ふつうのおばさんである。超ふつうと言っても、よく見たらポシェットがコーチだったりするのだが、ぱっと見お金持ちな印象はない。どちらかというと、犬の散歩の途中みたいなスポーティーなおばさんだ。

 カゴの中をちょっと覗き見すると……和牛ロース、ヒラメのお刺身、白菜・しいたけなどの野菜に、豆腐やチーズ、お菓子など。品目だけ並べてみれば、わたしの買い物(コープかライフ)とさほど変わらない。ただお会計は……なんと8,500円! 高い!! きっと今日の献立は、ヒラメのお刺身と牛すき鍋だろう。おそらく1食分で終わってしまうと思われる。ああ、やっぱりレベルが違う。

 わたしは心の中では大騒ぎだったがいたって平常心の顔で、紀ノ国屋でいつも買う祇園原了郭の黒七味詰替用1袋をレジに出すのだった。


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