人気イラストレーター/アーティストの松尾たいこさんが、CREA WEBでの連載「松尾たいこの三拠点ミニマルライフ」でも紹介した「洋服を買わないチャレンジ」体験について、エッセイ本『クローゼットがはちきれそうなのに着る服がない! そんな私が、1年間洋服を買わないチャレンジをしてわかったこと』(扶桑社刊)を出版。買わない体験で“ファッション断食”するために大事なこと、気づいたこと、これからチャレンジする人へのアドバイスなどを、特別にレクチャーしてくれました!

» 第1回 向いている人、始めどき、進め方
» 第2回 気づいていくこと、工夫すべきこと

買えないという制約があるからこそ
ひらめきが冴える

イラストレーター/アーティストの松尾たいこさん。ファッションやグッズにも造詣が深く、2017年11月に体験エッセイ『クローゼットがはちきれそうなのに着る服がない! そんな私が、1年間洋服を買わないチャレンジをしてわかったこと』(扶桑社刊)を出版。

 春夏秋冬、4つのシーズンをまたぐ「1年間洋服を買わないチャレンジ」中には、さまざまなイベントもあれば、誘惑もある。松尾たいこさんはいかにして、数々のピンチを乗り切ったのか。

「洋服を買えないとなると頭を使うようになって、いままで考えたこともなかったアイデアが浮かぶんです。前回お話しした、夏のイベントや食事会を手持ちの浴衣で乗り切ったのもそうですし、カーディガンがわりにストールを活用したり、ベルトをうまく使うことで服の雰囲気をガラリと変えたり。フォーマルなドレスが必要な場面では、人生で初めてレンタルブティックのお世話になるなど、服を買えないという制約を自分に課したことで、かえって世界が広がりました」

少し凝ったデザインのベルトは、着こなしのバリエーションが増えて便利。
「レンタルだったら少し冒険した洋服を選ぶこともできます」。イベントのためにレンタルしたこちらのドレスはヴァレンティノのもの。

最大のピンチを乗り越えて1年間のチャレンジ達成!

 最大のピンチは、チャレンジ11カ月目に旅行で訪れたロサンゼルスで待っていた。

「旅先の気候に合わせて現地で服を調達するのはよくあることだし、その土地の空気感に合うファッションをしたくもなる。そこにきて、ロスでは私の好みにピッタリなセレクトショップに出会ってしまったんです。

 旅先での出会いは一期一会。旅行先では2着までOKとか、自分なりの逃げ道ルールを作っておけばよかったと激しく後悔しました」

 せっかくここまで頑張ってきたんだからと服の購入はなんとか見送り、吟味したファッション小物を数点購入して帰国。これでピンチを乗り越えたかと思いきや、チャレンジ終了10日前にも、運命に引き寄せられるように自分好みのブランドに出会ってしまった。

「試着をしたらイメージ通りで、さらに欲しい気持ちが膨らんでしまって……。もう少しで達成だというのに、心をかき乱されました。ほんと、チャレンジ中の試着は魔物(笑)。軽い気持ちでフィッティングルームに行かないことをおすすめします」

 終了間際に何度もピンチを迎えながらも、松尾さんは「1年間洋服を買わないチャレンジ」を見事達成!

「チャレンジ前は、ミニマリストになるのかも? と思っていたけど、結果は違いました。自分に不必要な服は買い取りなども利用して処分したけど、クローゼットにはまだ120着くらい洋服があるし、必要があれば買い物だってします。でも、以前と大きく違うのは、クローゼットには好きな服だけを置いておけるようになったこと。チャレンジ前は『こっちの色味のほうが品よく見えるかな?』って、自分主体ではなく、人の目を意識した服選びも多くて、その結果、服のテイストが定まらず、あらゆるジャンルの服が無秩序に詰め込まれていたんですよね。

 でも、このチャレンジによってファッションはセルフブランディングだという意識が高まり、大事なのは人にどう見られたいかではなく、自分をどう見せたいかだと気づけた。それが、大きかったですね」

2018.01.27(土)
文=今富夕起
撮影=平松市聖