秋といえばこの食材でしょう!?
が、惜しみなく登場!

 さきほどから目の前で包丁を引いていた刺身が登場。

 アオリイカのねっとりとした舌触りに、一同うなる。両面に細かく入れた包丁が活きているのだ。そして、藁焼きしたもどり鰹を、ほんのり感じる香りとともに。

醤油だけでなく、塩やチリ酢などでも愉しめる。

 刺身はもうひと品。ぷりっぷりのボタン海老を、山芋を丸くくりぬいたもの、梅酢を寒天状にしたものと一緒に盛り付け。

ただ切って盛るだけではない。刺身のプレゼンテーションも荻野スタイル。

 焼き場で香ばしい匂いを放っているものが、さっきから気になって仕方がない。……あっ! 見事な大きさの鰻ではないか! これまた大好物である。しかも天然ものだというではないか。焼き上がりを眺めているだけで、口のなかがよだれでいっぱいになってしまう。

サクッサクッと小気味よい音で包丁が入る。するとまたまた良い香りが!

 霞ヶ浦の鰻を白焼きに。皮目はパリッと、なかは予想以上にふんわり。お酒もすすむ。かれこれけっこうな品数が出ているはずだが、食欲は止まるところ知らずだ。

肉厚の鰻を、炭でじっくりと焼き上げた逸品。器もすばらしい。

 そんな私の胃袋の状況を知ってか知らずか、次に出てきたのは、ステーキ! 太田牛にいい塩梅で火を通し、目の前でカット。なんと、一緒に盛り付けているのは松茸だ。秋の味覚の頂点ともいえる食材の登場に、カウンター席は大いに盛り上がる。

刷毛で醤油をぬってから焼いた松茸の香ばしいこと! 銀杏や栗も花を添える。

 そろそろ終演に近づいてきた。が、彼はまだまだ魅せてくれる。

 各人の前にセットされた小鍋、その黄金のスープに浮かぶのは松茸! 名残の鱧をしゃぶしゃぶしていただくのだ。略して「ハモマツ」などとよばれるくらい、この時期の日本料理店ではよく見かける一品だが、奥田のそれは、ひと味もふた味も上であった。鱧のうまみが溶け出した出汁は一滴たりとも残したくない。当然、最後まできっちり飲みほした。

“五臓六腑に染みわたる”とは、このためにあるフレーズだ。

 この流れでいくと、ごはんも松茸かな? と、こそこそ話していたところ、またもや嬉しい裏切りが。目の前に出てきたのは、鮑ごはん! しかも、シャキッとしたちょうどいい固さの米なのだ。炊き込みではなく、寿司店のシャリ切りの要領でごはんと鮑出汁を合わせているからなのだそう。

すりおろした山芋と、やわらかく煮上がった鮑がのった贅沢な味。

 最後の甘味も抜かりがない。自家製水羊羹のほか、シャインマスカットなど数種の葡萄のゼリー寄せの2品がふるまわれた。

 日本料理で季節感を表現するのは当たり前といえるが、それ以上のものを感じたこの日。最近では、厳しい暑さの夏が終わるとあっという間に極寒の冬に突入する、四季ではなく“二季”な日本において、本当の四季はここにあるのかもしれない。

 さあ、冬はどんなもので私たちを魅了してくれるのだろう。若き料理人の真の実力は、まだまだ計りしれないのだ。

銀座奥田(ぎんざおくだ)
所在地 東京都中央区銀座5-4-8 カリオカビルB1
電話番号 03-5537-3338
営業時間 12:00~13:00(L.O.)/18:00~21:30(L.O.)
定休日 日曜・祝日・年末年始
料金 ランチ 1万800円~、ディナー 1万8,300円~
[2017年9月訪問]

Keiko Spice(けいこ すぱいす)
東京都生まれ。得意なディスティネーションはハワイと香港。普段は3日に1回のペースで焼肉を中心とした食生活。別名「肉の妖精」。

Column

新店来訪! 美味しい出合いに一番乗り

ニューオープン、シェフやメニューが変わった店、面白い企画を立ち上げた店……などなど、なにかと「新しい」店を一番乗りで紹介するページ。「美味しい出合い」にご注目ください!

2017.10.23(月)
文・撮影=Keiko Spice
写真協力=Ukyo Okada