世界最高の旅人シェフがつくる
列車の料理

列車を湖の前で停め、シェフ ディエゴによるクッキングスクール。セビーチェの来歴からつくり方まで習い、最後は結局いただきます!

 「アンデアン・エクスプローラー」号のセールスポイントは、南米初の寝台列車であること。世界最高所を走る列車のひとつであること。そしてなにより、シェフ ディエゴ・ムニョスの料理が食べられることだ。

 このシェフについてかんたんにご紹介すると、スペインの超有名レストラン「ムガリッツ」と「エルブジ」で、料理界のレジェンドであるアンドニ・ルイス・アドゥリスとフェラン・アドリアのもとで腕を磨く。その後、母国のペルーで国民的英雄である料理人、ガストン・アクリオの店「アストリッド・イ・ガストン」のヘッドシェフを務める。

 そして彼に任されたこの店が、「ラテン・アメリカのベストレストラン50」で1位を、「世界のベストレストラン50」で14位を獲得という偉業を成し遂げた。と、こんな経歴の持ち主なのだ。

長さ約15メートルに幅2.5メートル足らずのキッチン車両で、夢のような料理が次々と作られて行く。

 「アストリッド・イ・ガストン」を離れた後、シェフは世界中を旅しながら20カ国以上のキッチンでペルー料理を披露してきた。2016年2月の「ニューヨーク・タイムズ」では、世界のノマディック・シェフ4組のうちのひとりに選ばれるという、まさしく新世代を代表するシェフなのだ。そして、その素顔もさすが旅人シェフ、とってもチャーミングな人だった。

 そんなシェフ監修の料理が「アンデアン・エクスプローラー」号では食べられるのだが、今回はスペシャルなことに、列車の旅にシェフも同行。一緒にコンドルを見たり、チチカカ湖に出かけながら、列車では料理をつくってくれるというとっても豪華な機会に恵まれた。

チチカカ湖のウロス島で、現地の人が食べるというトトラ葦の味をみるシェフ。

 今回「アンデアン・エクスプローラー」号の料理メニューを作るにあたってシェフが考えたのが、列車が旅する場所の食材を使っていくことだったという。そして当分、毎月シェフ自らが列車に同乗し、さらなるメニューの開発やキッチンスタッフの指導を行う予定なのだとか。さすがペルー料理の伝道師、やることのきめが細かい。

マスのムースとアボカド、レモン風味のチリを添えたジャイアントコーン。ジャイアントコーンはペルーの標高3000メートルほどの川沿いの高原でしか採れない。そこにペルーならではのチリを添えて、ピリッと辛い美味。

 シェフが考えたメニューは、もちろん存分においしい。でもそれだけでなく、旅の記憶を舌で思い起こすことができる。しかもその味が、訪れた土地のものだなんて、ほんとうに素晴らしいコンセプトだ。

列車1日め夕食のコンソメは、アルパカの肉詰めのトルテリーニを浮かべ、季節の若芽を添えて。アルパカの肉、臭みがなくおいしい。(C)Matt Crossick
列車2日めの夕食の魚料理は、ペルー発祥の料理、ジャガイモをベースとしたオコパソースをかけたエビ料理。(C)Matt Crossick

 ペルーはスーパーフードの宝庫なので、その料理のヘルシーさはすっかり定着した感じだ。が、このシェフ ディエゴの料理が、いかに身体にやさしいかということを、翌朝になって実感した。

 標高が高すぎるせいで、息苦しくて起きてしまうという毎晩。起きたら今度は時差ボケなのか、朝までまんじりともできない。毎日の平均睡眠時間、およそ3時間という状態で、胃腸はすっかり参っていた……。

 ところが、夕食前のおつまみ含め、フルメニューの料理をたらふく食べて、満腹で寝たにも関わらず……。朝には、なんとお腹が空いているという信じられない状態に回復している。いかにシェフの料理が胃腸にやさしいかという証だった。

最終日のアミューズは、カプチーノに見立てたリマの豆のスープ。楽しく、そしておいしい。(C)Matt Crossick

2017.06.27(火)
文・撮影=大沢さつき