創業400年の老舗の
4年漬け鮒鮨

見た感じと匂いからは味が想像できない“鮒鮨”。旨みをたっぷり含んだ複雑な味。

 「星野リゾート ロテルド比叡」ではフレンチの料理として登場した近江の伝統発酵食“鮒鮓”とは、そもそもどんなものなのか。

 鮒鮓は、春に穫ったフナを塩と飯(いい)に漬け込んで発酵させたもので、滋賀県の各地で作られている。創業400年の「四〇〇年鮒寿し 総本家 喜多品老舗」は、江戸初期に伊勢から現在の高島市にあたる大溝藩にやって来た藩主に賄い方として従って来たことが始まり。

「総本家 喜多品老舗」の店構え。江戸初期の元和5年(1619年)に創業。

 現在では稀になった木桶仕込みで、湖の深いところにいる高島沖産のニゴロブナを使うこと、漬け込みの際に熟成みりんを手水としてつかうなどのこだわりがあるという。

鮒鮓を円く盛る「巴盛り」という独特の盛り方は、湖上にすっくと鳥居の立つ、高島市の白鬚神社の御神紋“左三つ巴”をヒントに十七代目が考案したもの。4年漬け(左)と3年漬け(右)。両方ともオレンジの卵の部分が味の決め手。4年漬けはさらに濃い色で味わい深い。

 1年で漬ける鮒鮓もあるが、こちらは3年漬ける千日漬け(百匁百貫千日)が基本。春に琵琶湖でとれるフナを2年塩に漬けた後、飯に漬け替えて1年発酵させるという。この3年漬けの鮒鮓のご飯の部分を全部取って酒粕に漬け替えて、みりん粕で仕上げたものが4年漬けの甘露漬けだ。

 「星野リゾート ロテルド比叡」では、前篇でご紹介したようにこの2種類をそれぞれスライスにして2品に仕上げていた。

400年の歴史を有するお店を背負って立つ女将、北村真里子さん。

 きれいに木桶や皿に切り身にして並べられた鮒鮓を近江高島の地酒「萩乃露」と共にいただく。確かに、乳酸菌の発酵した匂いは強烈だが、生臭さとは違う。味も生っぽくはなく、アミノ酸の凝縮した、魚で作ったチーズとも言えそうな旨み。

 日本酒とはぴったり合うが、甘さを感じる4年漬けは白ワインにも合いそう。珍味が好きな酒好きには、たまらない味かも。フレンチ仕立てとはまた違う、オリジナルな鮒鮓の個性を楽しむことが出来た。

刻んだ鮒鮓をご飯で和えたものも売られていて、これが乙な酒のさかなになる。

四〇〇年鮒寿し 総本家 喜多品老舗
所在地 滋賀県高島市勝野1287
電話番号 0740-20-2042
https://www.400-kitashina.com/

星野リゾート ロテルド比叡
所在地 京都市左京区比叡山一本杉
電話番号 0570-073-022(星野リゾート予約センター)
http://hr.hotel-hiei.jp/

小野アムスデン道子 (おの アムスデン みちこ)
ロンリープラネット日本語版の立ち上げより編集に携わったことから、ローカルグルメや非日常の体験などこだわりのある旅の楽しみ方を発信するトラベル・ ジャーナリストへ。エアライン機内誌、新聞、ウェブサイトなどへの寄稿や旅番組のコメンテーター、講演などを通して、次なる旅先の提案をしている。
Twitter https://twitter.com/ono_travel

Column

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2017.06.18(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=鈴木七絵