濃厚でトリュフのよう!
マングローブの木の実カレー

 レストランの看板メニューは、メルバシェフがもっとも得意とする「カリー・クルア」。マラッカ名物といえばこのカリー・クルアといわれるほど有名なカレーですが、下ごしらえに1週間近く(!)かかることから、提供しているレストランはわずか。

「カリー・クルア/Kari Keluak」75リンギット。カレーというよりシチューのようなまろやかな味。キャンドルナッツのコクがあとを引く。

 伝統の味、という表現にまさにぴったりの料理。というのも、シチューのようなスープはいたって食べやすいのですが、皿の中に殻付きの栗のような姿で横たわっている「ブア・クルア」がすごいんです!

 ブア・クルアは、マングローブの沼地で育つ木の実。安全に食べるためには、3~7日間ほど水に漬け、くり返し水をかえて、毒性を抜くのだそう。

左:栗にそっくりの形のブア・クルア。あまり出会えない非常にめずらしい食材。
右:固い殻の中身をスプーンでほじって食べる。身はキャビアのようなテリのある黒色で、蟹味噌のような食感。

 「私は幼いころからよく食べていたわ。土の匂い、といえばいいのかしら、ブア・クルアの独特の匂いは好き嫌いがわかれるけど、私は毎日でも食べたいの」とメルバシェフ。

 食べてみると、たしかに得も言われぬ複雑な香りです。「磯の香り」や「少し苦みがある」などいろいろ表現されますが、このレストランで私が食べたブア・クルアは、トリュフのような味! 決して食べにくいわけではなく、一度食べると忘れられない、まさに珍味です。 1週間の下処理をしてでも食べたい気持ち、なんだかわかるかも。

 もうひとつの看板メニューは「カリー・デバル」。クリスタン料理の代表格で、クリスマスにはかかせない味。

「カリー・デバル/Kari Debal」45リンギット。マスタードシードと酢をきかせるのが、このカレーの特徴。一説には、悪魔のように辛いカレー、とも言われているが、ここではトマトシチューのようなやさしい味だった。

 メルバシェフにとってのカリー・デバルは、思い出がたくさん詰まった料理。「クリスマス、または結婚式の定番ね。祖父が、このカレーにパンをひたしながら食べていたのを思い出すわ」と語ります。

2017.05.30(火)
文・撮影=古川 音(マレーシアごはんの会)
写真協力=ザ・マジェスティック・マラッカ・ホテル