●極楽寺「ブーランジュリー ベベ」
深くて軽やかなパンに
“おいしい仕掛け”を施す

 江ノ電の極楽寺駅前の目抜き通り沿いにあるこちらのお店には、地元の小学生からお年寄りまで幅広い層の客がひっきりなしに訪れる。鎌倉のベルグフェルドなどで修業を積んだ安藤潤(あんどう・じゅん)さんの焼くパンは、ここ極楽寺でも地元の人を魅了し続けている。

「気軽に入りやすいお店にしたかった」という安藤さんの思いから、店内はガラス張り。外からでもパンがよく見え、思わず立ち寄らずにはいられなくなる。

 安藤さんのパンは、ハード系からサンドイッチなどの総菜パン、ヴィエノワズリーと多岐にわたる。「味わって欲しいのは、自分が作りたいパンじゃない。お店がある土地に住んでいる人に合わせたパンを作るのが自分のこだわり」。

 極楽寺は昔から住んでいる人が多いエリア。お年寄りと、学校が近くにあるので子供が多い。それゆえに、柔らかめのパン、口溶けのいいパン、総菜パンなどのメニューを加えていくうちに50を超えるラインナップになった。

次々に焼き上がったパンが運ばれてくるが、回転が速く、すぐ売り切れになるものも。

 今回紹介する4品も、パン屋には昔からあるメニューだが、ひとつひとつに安藤さんならではの“おいしい仕掛け”がほどこされている。

写真左より:「レーズンパン」250円、「ショコラ」210円、「スコーレブロー(クリームパン)」200円。

 写真左は、トンカ豆で香り付けしたラム酒漬けのオーガニックミッドナイトビューティレーズンとサルタナレーズンを使ったレーズンパン。安藤さんの手にかかれば昔ながらの定番がこんなにもリッチに。

 写真中央のショコラは、雑誌を畳んだようなフォルムが特徴。サクサクのクロワッサン生地とベルギー産チョコレートのコンビネーションが楽しい、人気メニュー。

 写真右のスコーレブローは、日本語に訳すと“学校のパン”。ノルウェーで定番のクリームパンを上品にアレンジ。ブリオッシュの生地にカルダモンの香りが付いたカスタードクリームを絞って、ココナッツを散らした。こんなクリームパンを食べて育つ近隣の子供たちが心底うらやましい!

「チェリーとピスタチオ」330円。

 こちらのチェリーとピスタチオは、全粒粉とライ麦を配合したコンプレに、チェリーブランデーで香り付けしたドライチェリーとピスタチオを合わせて練り込んだ、素朴ながら華やかさを秘めた大人向けの一品。

 パンやお菓子作りをするのが日常という家庭で育った安藤さん。お店も、地域の人たちに日頃から愛されるパン屋を目指しているそう。取材時も、店の前を小学生が手を振って通り過ぎたり、なじみの客が立ち寄って挨拶がてらパンを買っていったりする。力強く印象的な味わいのなかにも、安藤さんの人柄や愛情が感じられ、食べ手の心を惹きつけているよう。

子供たちから「べべさん」とよばれるんです、と語る表情がうれしそう。

 「夢だった“街のパン屋さん”を、鎌倉の極楽寺で実現できたのが本当にうれしい」と繰り返していた安藤さん。トレンドに左右されない、けれど古びているわけでもない。地元の人が太鼓判をおす、真摯で丁寧に作られたパンは、わざわざ訪れて味わう価値があるに違いない。

Boulangerie bébé
(ブーランジュリー ベベ)

所在地 神奈川県鎌倉市極楽寺1-4-3
電話番号 0467-24-8595
営業時間 10:00~18:00
定休日 日曜、月曜

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2017.04.29(土)
文=吉村セイラ
撮影=平松市聖