立っている者は母(リョウコ)でも使え!

ヤマザキマリ

ベストセラー『テルマエ・ロマエ』の著者・ヤマザキマリさん。『ルミとマヤとその周辺』などに登場する美しい母親・リョウコさんが、大好きな音楽の仕事をしながら、2人の娘をどのように育ててきたかをつづる、インパクト大のボーダーレス子育てエッセイ。「こんなたくましいお母さんになりたい!」と大好評です。(「CREA」にて好評連載中。不定期連載)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

 結婚したばかりの夫と死別したリョウコは、そのショックから意識も視線も完全に向きを変えるかのように、それから間もなくして出会った男性と電撃入籍した。物心がついてから、その不自然ともいえる人生新展開へのスパンの短さについて、母に「なんでそんなにすぐに……」と問い質した事があるが、それに対するおぼろげな答えは「心細さがあった」という類いのものだった。頼る人もいない中、2歳にもならない娘を抱えての仕事は、強い意志を持って故郷を去ってきたリョウコにも簡単なものではなかったのだろう。

 新たに知り合った男性は大手の建築会社に勤務する通訳で、勤務地はサウジアラビアだった。母はまず、この人の母親であるハルさんと出会って意気投合したらしい。ハルさんは、樺太出身のロシア人の血を引くエキゾチックな女性で、やはり早くに夫を亡くし、女手一つで一人息子を育ててきた人だ。母にとっては心強い大先輩だったともいえる。

 この再婚相手との間にも一女が生まれたが、夫はすぐにサウジアラビアに戻ってしまったので親子揃った暮らし、というのはほぼ実現しなかった。しかし、その婚姻によって義母となったハルさんは、我々と一緒に生活をする事になった。市営住宅が当たったので、そちらに引っ越しをして、私と妹は近所の板壁のおんぼろ保育園に預けられ、家ではハルさんが家事を担当した。ハルさんは料理が頗る上手かった。愛読書だった『暮しの手帖』のお惣菜コーナーと首っ引きで妙な料理を作るリョウコと違って、ハルさんは北海道の味覚を熟知した美味しいご飯を次々と生み出した。得意料理はホタテの炊き込みご飯だった。

 今思えば、母はハルさんと一緒に暮らしたくて、その息子と結婚をしたのではないかと思うくらい彼女の存在をありがたがっていたのだが、間もなく安泰という状況を長引かせたくないリョウコの先天的なDNAが疼き出したのか、その後またしても我々の想像を絶する新たな展開が待ち受けていたのである。

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ヤマザキマリ 近況

2017年4月14日(金)「アナザースカイ」(日本テレビ系)に出演。漫画家としての原点になったパリを巡ります。4月26日(水)の風呂の日には「ヤマザキ春のマリまつり」と題して「青山 月見ル君想フ」でライブやります!

プロフィール

1967年東京都出身。17歳の時、絵の勉強のためフィレンツェに留学。海外生活の中、マンガを描き始める。その後、中東、ポルトガル、シカゴへ移住し、現在は北イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)でマンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。著書に『スティーブ・ジョブズ』(既刊4巻、講談社)、『プリニウス』(既刊4巻、とり・みきと共著、新潮社)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『男性論 ECCE HOMO』(文春新書)など多数。

ブログhttp://moretsu.exblog.jp

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