通りすがり絵

なかむらるみ

今やファッションもカルチャーもガラパゴス化してますが、人間のタイプは地域によって属性が分かれるようです。そこで『おじさん図鑑』で計り知れない観察眼を披露したなかむらるみさんが、通りすがって思わず二度見した人達を観察&採取。果たしてどんな人種が!?(不定期更新)

※ 連載中は最新の3話を公開しています。

 展示があって金沢に行ってきた。木工デザイナーの三谷龍二さんとの展示で、テーマは「伯父さんの休日」。三谷さんが休日に作った立体と、わたしが描いた三谷伯父さんが並んだ。企画発起人であり、コーヒー焙煎家のオオヤさんのドラゴンコーヒー店(龍二の龍=ドラゴン)も限定オープンして、愉快な展示となった。個人的な課題はまだまだあるけれど、ひとまず形になって、ああヨカッタヨカッタ。

 さてそんな夜、美味しいご飯を食べようと、金沢の街に繰り出した。どのお店に入ろうか? 迷ったときは、スマホじゃなくて「賭け寿司」だ。予備知識なくプラプラ歩いて、見つけたお寿司屋さんに適当に入るのだ。まずくて高かったりするのでスリリングだが、大将の創作寿司とか、安くて新鮮なネタとか、地元の酔っぱらいのお客さんとか、その土地でしか味わえないものや人に遭遇できるので、なかなかおもしろい。

 片町という繁華街から裏のほうに小道を進むと、ぐっと静かになり、新天地という屋台街にでた。新宿のゴールデン街のような怪しげないい雰囲気。そこに一軒のお寿司屋さんを発見し、入ってみることにした。

 店内は5人なんとか入れるくらいの広さで、カウンターのみ。清潔感はないので、神経質な人はダメかもしれないレベル。45歳くらいの大将ひとりでやっている。奥の席では、泥酔男が熟睡中。焼酎の水割りを頼むと「はい、お通しね~赤いほうが甘エビで茶色っぽいのがガスエビね。色は悪いけど美味しいよ」。大好きなエビのお刺身が2種も出てきたので、これは当たりかもと盛り上がってくる。

 続いてお寿司も食べようとしたところ、どこからともなく奇妙な音が聞こえ始めた。

 コリコリ~♪ コリコリコリコリ~♪ 

 やや高い軽快な音で、鳥とか打楽器みたいだ。発信源は近い。

 コリコリコリ~♪コリコリ~♪ 

 何度めかに、それが泥酔男の歯ぎしりだと分かった。うそでしょー! 

 音の正体が分かったら、すっきりするどころかさらに奇妙な気持ちになった。人の歯ぎしりを聞きながら、お寿司を食べたことなんて今までもないし、この先もあるだろうか。「わっ歯ぎしりだ!」ビックリして言うと、気づいた大将は「歯ぎしりダメよ~歯ぎしりはお家でやってね~」と、お寿司をにぎりながら、お通しの説明みたいな調子で注意してくれたが、そんな生ぬるい注意では、疲れた泥酔男に効果なし。少し止んでもまた始まるのだ。コリコリコリコリ~♪ 

 う~ん。変な気持ちでも、お寿司はけっこう美味しい上に安かった。これは賭けに勝ったのか、負けたのか。

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なかむらるみ 近況

妊婦になりました。9カ月です(2017年2月現在)。病院の検査で生ものの抗体がないから食べないようにと言われ(お刺身、生肉が大好物だったので衝撃!)、しばらくお寿司を食べていません。心にぽっかり穴があいたようにさみしいです。またこんな風に賭け寿司したいな~。無茶が恋しいです。

プロフィール

1980年東京都新宿区生まれ。イラストレーター。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒。雑誌、書籍などを中心に様々なイラストを描いている。「CREA」「ビッグコミックオリジナル」「翼の王国」などで連載中。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)。好きなものは、コーヒーとリュック。

ホームページ:「TSUMAMU」 http://www.tsumamu.net

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