アマンの伝説を築いた
ホテリエが戻ってきた!

プールと壺の配置で「アマヌサ」を、もっといえばアマン創業者のゼッカが敬愛した建築家バワを思い出すような光景。全体のランドスケープふくめ建築のアイディアは、アンソニーから生まれている。

 「トリサラ」の総支配人アンソニー・ラークは、かつてはじめてのアマン「アマンプリ」の総支配人を12年間務め、その間バリ島の「アマンダリ」「アマンキラ」「アマヌサ」「アマンワナ」のオープンにも携わったホテリエだ。80年代後半から90年代前半にかけての“アマン旋風”を巻き起こしたひとり。

 「トリサラ」の共同オーナーでもある彼は、一時2年間ほど総支配人役をひとに任せていたが、2015年からまた、その座に戻ってきた。

左がリゾート・マネージャーのヘレン。右がいまやレジェンドのホテリエ、アンソニー。スタッフみんながアンソニーを尊敬し、ハードワークも厭わないという雰囲気が伝わるのだが、そこはタイ。とてもやわらかな空気のもとにサービスが提供される。

 「私が戻ってきたのは何も不思議なことではありません。トリサラは私の子供ですからね。ゲストもどんどん変化前進しています。トリサラもより新しい“ラグジュアリー”に対応すべきですし、発展成長させなくてはいけません」と、アンソニーは話してくれた。

 「トリサラ」のゲストはその1/4がリピーターだという。だからこそつねに求められる極上の上質さと新しいアイディアが必要なのだと。

いくつもの丘を有する敷地内はカート移動が基本だが、散歩道もきっちり用意されていて、鬱蒼とした木々の中をプライベートビーチまで下りていくのもイイ感じ。

 アンソニーの考える“ラグジュアリー”とは「見かけだけのサービスでは、ハイエンドな旅行者を満足させることはできません。むしろ彼らは放っておいてほしいのです。もちろん実際ほったらかすわけではないですが、アレコレ押しつけられるのが嫌い。モノより時間やスペースを提供してほしいと思っているのです」。

敷地内、随所に花あり。で、この花を浮かべた壺もゴマンとあるのだが、花係の女性がひとりで黙々と入れ替えをしている。アジアでよく見るデコレーションなれど、彼女のセンスは秀逸なり。

 こうしたアンソニーの考えをもとに「トリサラ」で新しくスタートしたのが、「ディレクターズ・デン」という世界初のデジタル・ラウンジだ。プロによる写真やビデオの撮影・編集。360度カメラによる撮影も頼めるし、自撮りした写真や動画をプロの撮ったものとミックスし作品として完成させてもくれる。立派な写真集に仕立ててくれて1冊約6万円。形にできない“旅の思い出”をサービスにした試みだ。

 たとえば、こんな感じでふたりの思い出をビデオに!

 スタッフに聞くと、アンソニーはデスクワークよりも、外でゲストたちと話をしているのが好きらしい。以前、彼のインタビュー記事に「大切なことはすべてゲストから教わります」とあったが、いまでも実践、継続中なのだろう。

 彼のように総支配人がホテルの顔というホテルが少なくなってしまったいま、そういう意味でも「トリサラ」は貴重なホテルだと思う。一泊、いちばん下のカテゴリーであるジュニアスイートで約1,000ドル。オールインクルーシブでもないのにこの宿泊料は、それだけの価値がこめられているのだと思う。

2016.12.27(火)
文・撮影=大沢さつき