BOOKS INTERVIEW 本の本音

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異世界への入口をそっとのぞき見る
旅情奇譚、森見登美彦の『夜行』

作家生活10周年、実質13年の果実は「旅情奇譚」

今月のオススメ本
『夜行』 森見 登美彦

10年前、「鞍馬の火祭」を見物に行こうと集まった、京都の英会話スクールに通っていた6人の仲間たち。だがその夜、仲間のひとりが姿を消した。失踪した長谷川さんを忘れられなかった5人は、10年ぶりに火祭を見に集まろうと貴船の宿にやって来る。夜。祭。異世界への入口。おなじみのモチーフが13年の熟成を経て結実した作品。
森見 登美彦 小学館 1,400円

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 仲間だった女性の失踪の謎。残された5人が旅先で同じ作家の絵を見たという偶然。それぞれが語り始めた、旅先での割り切れない体験。森見登美彦さんの『夜行』は、のっけから、不気味さと不可解さが入り交じる夜の暗さや、不安を覚える雰囲気を漂わせて進む。

「みんなが同じ作家の絵を見たことがあるという設定は、連載を本にまとめるにあたって、加えた要素です」

 森見さんが学生時代に京都国立近代美術館で見た、長谷川潔の銅版画の印象が色濃く残っていたという。

「黒が印象的な静物画のシリーズがあるんです。時間が止まった夜を連想させるその作風は、本作のカギになる銅版画家・岸田道生の連作絵画のもとになっています。しかも、銅版画の特徴が小説全体のイメージとも合うとわかって、この作品世界の閉じ方がつかめました」

 森見ワールドの真骨頂ともいえる“畳みかけるエンディング”に至るまでの、夜行列車の旅情や、旅先での出来事がまた魅惑的。語り手の男が、出奔してしまった妻の様子を見に行く尾道、また別の語り手が、知人姉妹らと出かけた先で、不気味な予言をされてしまう奥飛驒……。

「僕の“恐怖の感覚”は、19世紀末か20世紀初めくらいの古典の怪奇小説で培われた好みから変わってないんですね。宗教的な人間でもないし、超常現象を信じているわけでもないけれど、私たちが暮らしている日常がすべてだというのでは、少し寂しい。でも小説なら、どうにも説明できない世界を作れるので」

 旅先では、主人公たちの意外な一面も露わになる。

「旅に出た主人公たちは、本当は日常から離れているはずなのに、旅という非日常で、日常の自分が隠してきたものに追いつかれる。そういうお話になっていきましたね。考えてみると、僕の旅のスタイルとつながっている気がします。僕自身が旅をしても、その土地に誘発される自分のイマジネーションだけを楽しみにしているところがあって。ひと通り観光はするんですが、新しいものと触れ合って成長したりはせず、するのは内省的な妄想ばかり(笑)」

 1年半ぶりの新作。対談集『ぐるぐる問答』も出たし、新連載も始まった。本格始動に胸が躍るが、

「振り返ってみるとだいたい10年周期で空白期が来る(笑)。次は被害が大きくならないように、自分のペースでやっていくのを見守っていただけたら……。スランプ期ありきの人生計画もどうかと思いますが」

森見 登美彦(もりみとみひこ)
1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了。2003年「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『夜は短し歩けよ乙女』など著書多数。近著に対談集『ぐるぐる問答』がある。

<この記事の掲載号>

CREA 2017年1月号

食べてのんびり、また食べる
ゆるむ、台湾。

定価780円

2017.01.02(月)

文=三浦天紗子

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