BOOKS INTERVIEW 本の本音

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科学に潜む“人間臭さ”を小説で読む
元研究者・伊与原新の『ブルーネス』

科学の分野には、人間臭いことがいっぱい詰まってます

今月のオススメ本
『ブルーネス』 伊与原 新

なぜ予知できなかったのか――。東日本大震災によって存在意義を問われた地震学者達の中から、新たな計画が生まれる。海底の変化をモニタリングすることによって、津波の高さや到達速度を計測する「津波予測」だ。無謀なプロジェクトに集まった面々が奇跡を起こす!
伊与原 新 文藝春秋 1,850円
» 立ち読み・購入はこちらから(文藝春秋BOOKSへリンク)

 地球惑星物理学を専門とする研究者から、小説家へと転身を遂げた伊与原新。最新長篇『ブルーネス』では、海の世界へと想像力をダイブさせた。

「東日本大震災からしばらくして、大学院時代の恩師が突然メールをくれたんです。最近は津波をやっている、と書いてありました。この物語に出てくる“ウミツバメ”の元となった、津波監視システムを研究・開発していたんです。メールの最後には“もう想定外だったとは言わせない”という一文がありました。彼の口から、そんなふうに熱い言葉が出てきたのは初めてです。科学の研究者達は、あの震災に対してどんな思いを抱いているのか。そこを知りたい、書いてみたいと思ったんです」

 まずは恩師と再会し、取材を進めた。そこで得たリアリティを元に、「『プロジェクトX』のような」ストーリーラインを構想した。主人公は、震災をきっかけに地震研究所の広報職を辞めた準平。海洋地球総合研究所の武智に乞われ、津波監視の新プロジェクトへの参加を決める。ひとりまたひとりと仲間が集まっていくことで、ブレイクスルーの端緒が芽生える――快感必至の前半戦だ。

「実は、津波専門の研究者は日本にわずかしかいません。だとすれば登場人物達も、別の専門領域を持っているだろうと思いました。エンジニア、古地震の研究家、シミュレーションを作るプログラマ……。科学の世界に身を置いていた時期に培った“こういう分野を専門にする人はこういうタイプ”というイメージを、登場人物に投影しながら書きました」

 後半戦では、最大の試練が勃発する。それを救うのは、表紙には描かれていない「最後の仲間」だ。科学を愛し、信じるその人物の存在によって、この物語は深みを増した。

「科学者は、自分の気持ちを言葉にする人が少ないんです。事実関係を述べるに留まる人が多くて、東日本大震災当時にどんなことを思っただとか、人々の役に立つために科学はこれからこうしていかなければ、という話にはなりづらい。でも、表には出していないというだけで、みんな何かしら思っているんですよ」

 そこを書くのが、小説なのだ。

「科学って人間が作り出しているものなので、人間臭いことがいっぱい詰まっています。そこの部分を、小説にできたらなと思って書き続けてきました。研究者人生も楽しかったんですよ。でも、自分は小説家になって本当に良かったと思える、一番大好きな小説ができました」

伊与原 新(いよはらしん)
1972年大阪生まれ。東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。大学勤務を経て、2010年『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し小説家デビュー。

<この記事の掲載号>

CREA 2016年12月号

おいしいもの、買いたいものいろいろ
贈りものバイブル

定価780円

2016.12.04(日)

文=吉田大助

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