BOOKS INTERVIEW 本の本音

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松田青子の目で世界を見てみたくなる
『ワイルドフラワーの見えない一年』

色とりどりのテーマで咲きそろう、お花畑のような掌篇集

今月のオススメ本
『ワイルドフラワーの見えない一年』 松田青子

50という数にこだわり、約1/3の作品をこの本のために書き下ろし。収録順も松田さん自身で決めた。1~数行でオチがつくたくらみが楽しい作品、ナショナルアンセム(国歌)が擬人化されたキュートな話、ミソジニー(女性嫌悪)をマグロに見立てて解体する話など、著者の鋭い観察眼と豊かな奇想から生まれる面白世界の連射攻撃。
松田青子 河出書房新社 1,500円
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 〈「ねえねえ、そんなにいいの、ボンドって?」〉と、歴代のボンド・ガールたちが初めて一堂に会してジェームズ・ボンド談議を始める「ボンド」。〈どんな天国がいいですか?〉と天使に聞かれた〈三年間着ていなかったセーター〉がたどり着いた安楽の地を描く「ハワイ」。

 松田青子さんの『ワイルドフラワーの見えない一年』は、フェミニズムあり、社会批判あり、芸術愛あり、センチメンタルあり……色とりどりのテーマで野趣たっぷりに咲きそろうお花畑のような掌篇集だ。収録された作品数は、キリよく50。

「私はふだんから、小さなアイデアをわりといろいろ思いつくのですが、使いどころがないものも多くて。『ワイルドフラワーの見えない一年』というフレーズも、メモ帳にずっと眠っていました。短い作品だと、『ケイジ・イン・ザ・ケイジ』とか、そういう小さなアイデアもどんどん使えるので、とても楽しかったです」

 ステレオタイプな常識や先入観を、さくさくと捌く。だがそれをどーんと盛りつけて終わりではなく、ユーモアやアイロニーをまぶして巧みに料理。松田さんのその華麗な技に、あらためて見惚れるばかり。

「フィクションの中ではよく、女性が殺されたり妊娠したり、存在が都合良く利用されますが、その“あるあるネタ”を集めて書いたのが『女が死ぬ』です。また、私自身、仕事の依頼で「女性ならではの感性で」と言われることが実際にあったのですが、ひっくり返したらその言葉がどれだけおかしいかわかるのではないかと、『男性ならではの感性』ができました。“これはこういうもの”という固定観念に、いつも居心地の悪さを感じます。だからそれを一つずつ解体していくようなことがやりたくて、その方法や形式を考えました」

 絵画を下敷きにした作品も異彩を放つ。「星月夜」は、ゴッホの絵の中に住む少年の話だ。

「ゴッホが精神病院にいたときに描かれた作品らしいのですが、そんなの悲しすぎると思うほど、絵は生命力にあふれている。なので、絵に違う意味づけをしたかったんです」

 メイという少女が19世紀の女性画家イーヴリン・ド・モーガンの魅力について一席ぶつという3ページほどの掌篇「フローラ」の作中には、〈一回この人の目で世界を見てみたかった〉という言葉が出てくるのだが、同じ言葉を松田さんに捧げたい。「一回松田さんの目で世界を見てみたい」と思っている読者は大勢いると思うのだ。

(C)小原太平

松田青子(まつだあおこ)
1979年兵庫県生まれ。著書に『スタッキング可能』『英子の森』など。エッセイ集に『ロマンティックあげない』など。訳書も多数。

<この記事の掲載号>

CREA 2016年11月号

一杯がもたらす最高の癒し
喫茶店とコーヒーがそこにある幸せ

定価780円

2016.11.04(金)

文=三浦天紗子

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