役者冥利に尽きた「せいせいするほど、愛してる」

――女性の敵ともいえるキャラ・久野淳志を演じ、話題になったドラマ「せいせいするほど、愛してる」にレギュラー出演が決まったときの感想、ドラマ放送後の反響について、どのように思われましたか?

 初めていただいた大きい役ですし、本当に感謝しかないですね。現代劇ということで、最初はどこまでやっていいのか、戸惑ったのですが、今後もっともっとテレビドラマに挑戦していきたいという欲も出てきましたね。役柄的にはかなり悪い男でしたが(笑)、一癖も二癖もある役で良かったと思いますね。「この人、嫌い」という意見も聞こえてきましたが、それって役者冥利に尽きるんです。中村隼人ではなく、久野淳志として観てくださったわけですから。歌舞伎での僕しか知らない方はイメージが変わったと思いますし、ドラマをご覧になった方がこれから歌舞伎を観にきてくださったら、またイメージが変わると思います。

――また、「揖保乃糸」のCM出演や、 LaLa TVの料理番組「メンズキッチン2」でのMCなど、歌舞伎俳優の枠を破るような活躍も目立ってきています。

 「揖保乃糸」は歌舞伎俳優らしい王道なCMを撮っていただきたいと思い、僕からあの役で、あの衣裳で、あのような演出でやりたいというアイデアを出しました。制作からは「刀を使ってほしい」という依頼がありましたので、憧れだった「紅葉狩」という演目の平維茂という役をイメージした雰囲気にしたつもりです。あと、台所に立たない歌舞伎の先輩方もいらっしゃいますが、誰かのためにというよりは自分が食べるために料理をすることが昔から好きだったんです。だから、「メンズキッチン2」のお話が来たのかは知りませんが(笑)、歌舞伎俳優が料理番組のメインMCをやらせていただけるなんて光栄です。ちなみに、いちばんの得意料理はエビチリです!

――その一方で、歌舞伎俳優がパーソナリティを務めるNHK FMの長寿番組「邦楽ジョッキー」も担当されていますね。

 初代パーソナリティが玉三郎さんですし、その番組を前任者から引き継ぐプレッシャーは大きかったです。ですから、当初は重圧しかなかったんですが、最近ではそれもなくなり、僕にしかできない番組作りを目指した結果、“番組史上初”をいろいろやらせていただいています。Eテレの「にっぽんの芸能」とコラボしてTV放送されたり、ラスベガス公演のときにはラスベガス出張収録をしたり、高校の同級生の神木隆之介くんやテレビアニメ「ワンピース」のサンジ役の声優である平田広明さんにゲストで出ていただきました。長年番組を聴かれているリスナーの方にとっては異色かもしれませんが、これからも番組の良さを残しながら、新しいことをやっていきたいと思います。

2016.10.21(金)
文=くれい響
撮影=深野未季
スタイリスト=九(Yolken/東京都港区元麻布3-1-35 グランカーサ六本木B2F、03-6804-2624)
ヘアメイク=佐藤健行(HAPP'S)