何が今後の課題なのか?
演奏家としての在り方を深く考えた

『ラ・カンパネラ~革命のピアニズム』金子三勇士 3,000円(税抜) 発売中(ユニバーサル ミュージック)
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 帰国後は、東京音大付属高校2年に編入し、同大学を卒業、そして大学院を修了。2008年にはバルトーク国際ピアノコンクールで優勝を飾った。彼の完璧な「エリート人生」を思うたび、当人の謙虚すぎるほど謙虚なパーソナリティに驚く。

「今年でデビューから5年目なのですが、平成生まれの『ゆとり世代』と言われる僕の世代で、クラシック音楽をやるということは一体どういうことなのかよく考えるんです。社会の中ではどういう位置づけになるんだろう、とか。シンガーソングライターとは違って、もともと大作曲家が書いてくれた曲を……これはまさに人間社会の宝物なわけですが……それを守って、次の世代に残していく役割を担っているわけですよね。そして今、世界情勢や政治・経済がこのように不安定になっている時代に、『優等生タイプ』とか『正統派タイプ』と言われてきた自分にとって、何が今後の課題なのか、つねに考えています」

 鍵盤楽器奏者として非の打ち所がないテクニックと、古典から現代ものまでオールマイティのレパートリーをもつ金子。大きな評価を得ながらも、つねに芸術家は「世界」との関係性によって定義されるという考えを持つ。

「バッハにしてもベートーヴェンにしても、長く聴衆に愛されてきた作品には伝統的な解釈というものがあるわけですが、『作曲家はこの曲を通して本当は何が言いたかったのか?』ということは、定着した解釈とは違っている場合もあると思うんです。明確に見直したうえで、自分の解釈で世の中に返していかなくてはならないと考えています」

 最新CD『ラ・カンパネラ』でも、ライナーノーツの曲解説を自ら担当し、曲が生まれた背景や作曲家の置かれた状況を仔細に分析している。華麗でロマンティックなリストのピアノ曲を、ただ豪華絢爛に弾くだけでなく、深い洞察とともに吟味しながら演奏する金子には、哲学者のような側面も感じる。

「リスト音楽院の生徒だったから……ということだけではないと思うのですが、先生たちがリストの人物像の片鱗を教えてくれると、自分でも色々調べたくなって……。そうしたときに見えてきたのは、リストの多面性なんです。革命的であり、宗教的でもあり、ひたすら旅をした人で、学校を立ち上げたというのもすごい。教育者にして文学者、哲学者のようなところもあります。15歳のときに弾いたリストと26歳の今弾くリストはまた違いますし、今現在、さらに原点にもどって作曲家のメッセージを理解しようと思っています」

2016.09.11(日)
文=小田島久恵