【BLは少女マンガにも宿る。】

 BLと少女マンガ、このふたつのジャンルには基本的に明確な“区別”が存在します。少女マンガ誌なら男子を主人公にするのはアリだけど、描くのは男同士の熱すぎる友情どまり。BLの香りはあくまで“匂う”程度で、その行間を読者が妄想で埋めるのは自由。BLマンガ誌なら女子が主人公なのはまずあり得ない。基本は男同士のハッピーエンドだけど、悲恋を描く場合は片方が女子と真実の恋に落ちて振られるという結末はなし、みたいな不文律があるように思います。

男×女×男の三角関係
おかしくてやがて切ない物語

 しかし、時代は変わるものですね。2007年創刊の少女マンガ誌『凜花』(小学館)の初号でBLとの境界線上としか言えない連載がはじまりました。岩本ナオさんの『雨無村役場産業課兼観光係』です。単行本のあとがきマンガを読むと打ち合わせで編集者からBLどうかなと言われたと描かれています。確かに岩本さんの描く少女マンガは本命男子と当て馬男子の関係性がヘタなBLより萌えるから、その提案はアリと膝を打ちました。

 東京の大学を卒業し、地元・雨無村の役場に就職した銀一郎は都落ちした気分。なぜなら村の高校生以上の若者は自分と幼なじみのメグミ、コンビニのバイト店員・スミオの3人だけ。観光係を命じられた銀一郎だが、雨無村には特産も名所もない。それでも真面目でどこか垢抜けず素朴な優しさを持つ銀一郎を巡り何かと事件は起こる。岩本さんは性差を超えて人間の普遍的な感情の機微を誠実に描き切りました。

 本作はBLではありませんが、作者がBL要素を意識して描いた傑作少女マンガです。さあ、岩本作品からBL入門してみませんか?

『雨無村役場産業課兼観光係』(全3巻) 岩本ナオ

攻めたタイトルだが内容はさらにすごい。無個性な田舎で、さらさらロンゲのイケメンと明らかに美人ではないぽっちゃり女子が朴訥な黒髪男子を巡って三角関係になるという超攻めた少女マンガ。切なくて切なくてぎゅっと心臓が痛くなる名作。
小学館 400円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。CREAで「R先生のおやつ」も連載中。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2016.09.04(日)
文=福田里香

CREA 2016年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

いい男がいっぱいだと幸せ。

CREA 2016年9月号

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定価780円