音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【次に流行る曲】
Ms.OOJA「あなたに会えなくなる日まで/You are Beautiful」

「着うた」が収益源にならなくなった理由は?

伊藤 今回は、Ms.OOJAの2年4カ月ぶりとなる11枚目のシングルCD「あなたに会えなくなる日まで/You are Beautiful」。Ms.OOJAといえば2012年、仲間由紀恵主演のTBS系金曜ドラマ「恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方~」の主題歌に「Be...」が大抜擢され、しかもそれが配信で100万ダウンロードを越える大ヒットになりました。

山口 既に、懐かしいですね。この頃は、スマートフォンが普及する前の携帯、いわゆるガラケー向けの音楽配信サービス「着うた」に影響力があった最後の時期ですね。着うた時代に、ユニバーサル ミュージックは、YouTubeでミュージックビデオを再生→着うたでヒットという方程式を生み出していました。

 ちなみに、「着うた」の前身は、携帯電話の着信音を自分で好きな楽曲にする「着メロ」ですが、この着信音が市場として大きくなったのは世界的に見て、日本だけだそうです。他国でも携帯向けの音楽配信ビジネスはあっても、Ring back tone、日本では「待ちうた」と言われる、電話をかけた時に相手が出るまでの間に流れる音楽が主流だそうです。着うたフルは1曲350円という価格設定もあって、当時はレコード会社の大きな収益源でした。スマホ時代の今は、iTunesで1曲150円~250円になっているので、成立しなくなりました。

伊藤 着うたって……、2012年ってそんな時代でしたっけ? スマートデバイスの進化によっていろんなものが目まぐるしく変わりすぎて、4年前が石器時代のように感じます(笑)。新しい音楽のプロモーションの仕方もたくさん生まれましたよね?

山口 パワーブロガーやインフルエンサーという言葉が出てきて、ブログでたくさんのファンを持つタレントや読者モデルをミュージックビデオのキャストに登用して、ネット上のクチコミで広げるという手法が見事にハマって定番化していました。僕の友人がミュージックビデオのキャスティングディレクターやプロデューサーとして活躍していたのでよく覚えています。

伊藤 CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)がプロモーションとして強く意識されはじめた時代ですね。「Be...」はドラマタイアップがあったものの、アーティスト自身はまだそれほど認知されていたわけではないので、オリコンのウィークリー最高位は20位でした。ただ、まさに歌・楽曲の良さがクチコミで広がり全国のラジオで多くのパワープレイを獲得しました。この「Be...」では、友人であるher0ismとAlex Geringasが作曲・編曲で参加しているんですけど、2人のコーライティング作品がこうしてヒット曲になったことが嬉しかった。

2016.08.31(水)
文=山口哲一、伊藤涼