極上の素材を用い、光る若き職人の技

 名店で培った伝統の技を引き継ぎつつ、情熱にあふれた独自の品を提供する。そんな若手職人の寿司店が、ここ数年熱い。

 なかでも注目されていた男の店「東麻布天本」が、2016年6月3日に待望のオープンを果たした。

 その男の名前は、天本正通。

真剣に火と向き合う天本氏。京都修業のようすが垣間見られる。

 外苑前「海味」の一番弟子として9年間研鑚を積み、滋賀の「しのはら」(なんと今年の秋には銀座に移転だとか!)、京都「祇園 さゝ木」で日本料理を学んだ彼が選んだ場所は、東京タワーの麓。

 黒塀の小粋な佇まい。中はカウンター8席。京都「なかひがし」などを手掛けたデザイナーの仕事だという。高級感のなかに感じる、わびさびの美意識。なんとも居心地がいい。

 先付けはモロヘイヤのおひたし、さつまいもの澱粉で作った胡麻豆腐に唐津の赤雲丹をのせて。なめらかな胡麻豆腐に心を奪われる。すばらしい幕開けだ。

なんとも出汁がすばらしい。修業の成果がさっそくここに。

 玄界灘のヒラメとエンガワ、そしてヒラメの肝。湯引きした貝。添えられた山葵は御殿場のもの。小ぶりだが粘りがあり、魚を引き立たせる。

ワカメでひと呼吸。バランスのよさとセンスが光る。

 番茶、酒、塩で蒸した篠島の蛸をいただいたところで、ちょっと握りが。積丹半島のシマエビだ。シャリは、滋賀県産のキヌヒカリ古々米、ひとめぼれ古米のミックス。

 「しのはら」に入っている精米店から提案されたものがぴったりだったそう。粕酢と赤酢のブレンドが、しまりのある味わい。

蛸の柔らかいこと! シマエビはとろけるように甘い。

 続いてカウンター越しに渡されたのは、噴火湾の毛蟹の手巻き。木更津産の海苔がいい塩梅だ。ここでまたつまみへと戻る。北海道・留萌の干し数の子。鰹の塩たたきもうまい。

干し数の子(ほしこ)は、手で裂きながら食べる。日本酒のいいお供。

 寿司店には珍しく、おくどさん(竈)が配置されているのもポイント。

香ばしく焼かれた鰻は島根県・宍道湖産。

2016.07.25(月)
文・撮影=Keiko Spice