完全庶民派モードの古い港町へ

古い港町に軒を連ねるのは、干し魚を売る乾物店。もともとこの一帯は船着場として賑わっていた。

 中心地とは反対側に福隆新街を歩いていくと、古い港町に行き当たる。

 「内港」と呼ばれるこのあたりは、かつては各国からの商船が行き交うマカオの表玄関だった場所。90年代にメインの港が東側の「外港」に移って以降は少々さびれてしまったものの、乾物店やローカルの海鮮料理店、釣具店などが並ぶ旧港町は、相変わらず人通りも多く、賑やか。

左:内港側に立つホテルから市の中心地を見る。新旧がみごとにごっちゃになったマカオの街は、やっぱり面白い。
右:内港の路地裏にあった床屋。下町を散策していると、こんな風景にも出くわす。

 ここ内港界隈は、万能調味料、オイスターソースの故郷でもある。

 1888年、中国広東省の村で食堂を営んでいた李錦裳という男が、ふとした偶然からオイスターソースの原型を発明。1902年に牡蠣の一大産地だったマカオへと店を移転し、本格的にオイスターソース作りを始めると、たちどころに大ヒット。その後、香港に拠点を移し、誰もが知る存在となった。その店こそ、日本でもメジャーな調味料メーカーの「李錦記」。マカオの内港に残るのは、記念すべき1号店だ。

日本でもよく見かける中華調味料、「李錦記」の1号店がここ。

 「李錦記」のすぐ隣でひっそりと店を構えていたのは、1902年創業のオイスターソース店「榮甡蠔油荘」。看板さえなく、思わず見過ごしてしまうような簡素な外観ながら、ここは、かの孫文も愛用したオイスターソースの名店だった。

 「李錦記」と同じく1902年にここマカオで起業して以来、1世紀以上に亘ってオイスターソースを手作りしていた老舗でもある。オーナーのおじいちゃんひとりでオイスターソース作りから店番まで頑張っていたけれど、2015年末に閉店。閉店したかと思えばいつの間にか再開していることもたびたびあったのに、残念でならない。

まるで骨董品店のような「榮甡蠔油荘」。おじいちゃんが一枚ずつ手作業でラベルを貼ったオイスターソースはデザインもレトロで可愛らしく、とっておきのマカオ土産だった。

 カジノのネオン街から徒歩圏内にある、マカオの下町。日本では体験できない異国情緒を味わえるのは、こんな古い街並みだからこそ。ちょっとシャイで優しいマカオ人に触れ合うのも、旅の楽しみ。マカオを旅するなら、ぜひ、「素顔のマカオ」にも触れてほしい。

【取材協力】
マカオ観光局

http://www.macaotourism.gov.mo/

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

2016.09.26(月)
文・撮影=芹澤和美