ウミガメがやってくる、信号も交番もない平和な島へ

有明海にぽつんと浮かぶ湯島。山の上には、1916年から海を照らしている灯台が。

前回の記事でも書いたとおり、天草は上島(上天草市、天草市)、下島(天草市、苓北町)のほか、大小さまざまの島からなる。ホテルや旅館が充実している上天草市や天草市を拠点に、周辺の離島まで日帰り旅行できるのも、天草ならではの楽しみだ。

 訪ねたのは、上島にほど近い湯島。ここには、島民360人と猫200匹が仲良く暮らしている。交番も信号もなし。美しい海辺にはウミガメも産卵にやってきて、特産品は鯛にアワビにウニ……と、聞けば聞くほど、心が誘われる場所だ。

島に到着して早々、猫に迎えられる。

 湯島の通称は、談合島。そう呼ばれるのには、歴史が関係している。1637年に起きた日本史上最大の一揆「島原・天草の乱」で、天草と島原のキリシタンたちが密かに集まり、戦いの決起をし、作戦を話し合ったのがこの島なのだ。かの天草四郎も、ここで総大将に任命されたのだそう。たしかに、地図を見ると、湯島は天草諸島と島原半島の中間に位置しているのが分かる。

 ちなみに、上天草市ではこれを一揆ではなく、自由と平和を求めて戦った聖戦ととらえているのだそう。これも興味深い文化。

ウミガメも産卵にやってくる湯島。ビーチや海の美しさにうっとり。

 江戸時代、密かに談合が行なわれた島は今、ちょっと足を延ばすのにちょうどいい旅先だ。湯島へは、上天草市の江樋戸(えびと)港から1日5往復している定期連絡船でわずか25分。周囲約4キロの島はのんびり歩いても1時間ほど。朝の船で湯島に向かい、散策を楽しんで、ランチに海の幸をたっぷり食べて上島に戻っても、まだまだ時間がある。

釣り船が浮かぶ江樋戸港を8時15分出発の便で湯島へ。午後には上島に戻るスケジュール。

 湯島行きの小さな船内は、島民や釣り人で朝から賑やか。この船は島民にとっての大切な生活の足なのだ。湯島港に到着する直前、船が防波堤数ヶ所に立ち寄るのは、釣り客をそれぞれの釣りスポットで下船させるため。そんな光景も、なんともおおらかで、島らしい。

左:島の南側沿岸にある集落。旅館や住宅はここに集中している。
右:船は人だけでなく生活物資も運ぶ。船が到着する時間、港は生活物資を待つ人で賑わう。

2016.07.17(日)
文・撮影=芹澤和美