この歳になっても京都に興味がない……

しまお (画用紙をめくって)今さらですが、「甲冑とは?」という質問から入ろうかな、と。

ジェーン 甲冑とは、母だったり働く女性だったり、皆さんいろいろと属性があると思うんですけど、こうありたいという自分の状態や、世の中からこう見られているという状況に適応するためには、朝起きたままの姿じゃ駄目じゃないですか。

しまお 駄目ですね。

ジェーン やっぱり何かしらしなきゃいけない。甲冑とは、その「何かしら」です。ただ、それをまとうことによってスッと背筋が伸びて勇ましく行けることもあるんだけど、そうじゃなくて、気が付いたらその甲冑があることによって息苦しくて動けないという場合もある。

しまお キャラ付けみたいな感じ?

ジェーン そうですね。あと、自分で「これがこの歳になったら似合うべき、似合うはずだ」と思ったものが全然駄目だったりとか。以前は赤い口紅もそうだったんですけど。

しまお 逆もまたしかりですよね。

ジェーン そうですね。私もこの歳になってまで、京都に興味がないとは思ってなかったんで(笑)。京都には何の恨みもないんですよ。そういうことじゃなくて、歳を取ればもうちょっと文化的に質のいい人間になると思ってたけど、いつまでも京都っていう甲冑をまとえない。行けるならアメリカのほうがいいといまだに思っちゃう。甲冑って、自分が理想的としている、自分が好きな自分であるために必要な装具ですね。

しまお 「甲冑」っていう言葉はどうやってひらめいたんですか?

ジェーン もともとCREAの連載では「踏み絵」って呼んでいたんです。「これを踏める、踏めない」って書いていたんですけど、ちょっとわかりづらいなと思って、じゃあ他の言葉に換えたら何だろうということで「甲冑」になりました。極端な話、今日お集まりになった女性の方ほぼ全員が着用してるであろうブラジャーがまず甲冑ですよね。ブラジャー着けないとやっぱりちょっと外出られないですよね。しない場合は何らかのイデオロギーがあるわけでしょう? うっかりし忘れたっていうことはないじゃないですか。

しまお 私、ブラジャーがしたくなくて「海外住もうかな」って思っていた時期がありました。

ジェーン 私、フランス人の合コンっていうかパーティーに、ノーブラで行こうとして周りにすごい止められたことあります。フランス人の文化はノーブラだと思っていて(笑)。

しまお リボンやレースが過剰に付いているパンツも甲冑ですよね。

ジェーン そうなんです。気が付いたら甲冑だらけだったなと思って。(talk02に続く)

ジェーン・スー
作詞家/ラジオパーソナリティ/コラムニスト。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社)など。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金、11:00~13:00)が放送中。

しまおまほ
エッセイスト。1997年に漫画『女子高生ゴリコ』(扶桑社)でデビュー後、漫画やエッセイを執筆する他、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」にレギュラー出演するなど、幅広く活躍を続ける。現在、「文學界」に小説「スーベニア」を連載中。著書に『マイ・リトル・世田谷』(スペースシャワーネットワーク)など。

女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。

著 ジェーン・スー
本体1,300円+税 文藝春秋

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