国内外で画期的な宿泊事業を展開し、世界の注目を浴びる星野リゾートが、2016年7月20日(水)、待望の「星のや東京」をオープンした。場所は東京の中枢である大手町。ここに立つ地下2階、地上17階となる独立型ビルに、日本旅館ならではの魅力を結晶させている。

 近年、東京では外資系の進出や老舗のリニューアルなど、ホテルシーンが活気づく。そのなかにあって、あえて「旅館」を打ち出す意義を、総支配人・菊池昌枝さんにうかがった。

星のや東京のアイコン「お茶の間ラウンジ」

星のや京都、星のや軽井沢の総支配人を経て、現在、星のや東京で総支配人を務める菊池昌枝さん。

 日本を象徴する文化としての旅館を目指し、実現した星のや東京。ここでは施設や室礼のすみずみにまで、日本の伝統が息づく。アプローチとなる印象的な庭を仕上げたのは、星のや京都なども手掛ける京都の老舗、植彌加藤造園。オリジナルの家具や小物にも、匠の技が込められている。

 各階に開かれた「お茶の間ラウンジ」のテーマは「日本の佳いもので団らんを」。国内で厳選された佳いものを堪能しつつ、スタッフのもてなしに寛ぐことのできる宿泊客専用スペースだ。星のや東京のもてなしの表れでもあるお茶の間ラウンジには、総支配人・菊池昌枝さんも深く関わってきた。

「たとえば、小さめの汲み出し茶碗も、唐津や京都の作家さんにお願いをして作ってもらったんです。この大きさだと、お茶もコーヒーも、お酒も飲める。ステムの短いグラスは東京・湯島の木村硝子店さんのオリジナルで、これならば日本酒やワイン、シャンパーニュにも合います」

各客室階に開かれている「お茶の間ラウンジ」。24時間、自由に利用できる。

 星野リゾートを巡る人の輪が、星のや東京に心のこもった「日本の佳いもの」をもたらしているようだ。

「夜、用意する日本酒や焼酎は毎月、銘柄が変わるんですよ。おつまみも蔵元推薦のものを。京都の松本酒造さんは『僕のお酒はトマトと合わせて』とのご要望でしたから、トマトの土佐酢ジュレを添えたり。お客様がご夕食に出られる前、ちょっと一杯ここで、というようにラウンジをご利用いただけたらと思っています。旅館といっても伝統的なことだけではなくて、新しいイメージも生まれてくるといいですね。置かせていただいている器の作家さんは若手の方ばかりですし、蔵元さんでも20、30歳代の後継者の方々が活躍していらっしゃいますから」

左:お茶の間ラウンジでは17時より食事前のお酒をサービス。木村硝子店のグラスと共に。
右:お茶の間ラウンジには、すべての星のやにある「ごろごろソファ」も。

 お茶の間ラウンジの利用は、同じフロアに配置された6室の宿泊者のみに限られる。そのため、客室の延長のような感覚でラウンジを活用することができるのだ。客室からラウンジへは滞在着のまま、畳敷きの廊下を踏みしめて。ホテルのクラブ・ラウンジとはまた違った、日本旅館ならではの安らぎが待っている。

2016.08.03(水)
文=上保雅美
撮影=佐藤亘