「おもてなしの工学化」が日本旅館を磨く

「おもてなしの工学化」は菊池さんにとってライフワーク。お茶の間ラウンジにて。

 今回、総支配人という重責を担うにあたり、京都での仕事で得た経験がとても支えになっていると菊池さんは言う。星野代表の意向を受け、京都へ赴いたのは40歳代半ば。もう、こんなチャレンジは二度とないかもしれない、と思い切って未知の土地に向かい合ったそうだ。菊池さんが星野リゾートで積み重ね、星のや東京へと結実させたキャリアの軌跡は、CREA世代にとって力強い励みとなるにちがいない。

客室向けのお茶セットも旅館らしく。茶葉は紅茶とほうじ茶を用意する。

「星のや京都は星野リゾートの中で客室料金が一番高く、富裕層のお客様をお迎えすることも多い施設ですので、それに相応しいおもてなしを課題にしました。京都のおもてなしとは何かということは、地元の方々との交流のなかで教えていただきました。京都流のおもてなしでは、お客様がどんな方かと識ったうえで、それに応じる。そして、また次にもどうぞ、と繋げる。一見さんで終わらせないんですね。とても勉強になったのは、相手の気持ちを考えることの大切さでした」

 なかでも、大徳寺・瑞峯院のご住職から授かった教えには助けられた。50歳代に入ってからの東京異動の際も「次は若い人を導き、後任を育てなさい。日本のためにも」という大きな言葉に力を得たと振り返る。

チェックイン時にはお茶の間ラウンジにて、その時々に合わせたお茶と茶菓子が供される。

「和尚様の言葉は私も考えていたところでした。旅館であることとは何だろうなと考えると、やはり大事なのはスタッフのおもてなしだと。おもてなしって微妙ではっきりとはわからないことですが、私達はそれを具体化し、誰でもわかる仕組みにして、スタッフに伝えなければならない。それを私は『おもてなしの工学化』と名付けて、自分のテーマにしています。社内ではサービス・プロフェッショナル講座を設け、スタッフのトレーニングも。東京では効率化プロジェクトを取りまとめるユニットと、おもてなしの具体化に取り組みました。おもてなしを意識して、ナチュラルに行える状態を生み出すという訓練も結構しました」

 日本の伝統である“もてなし”にも独自の流儀を取り入れ、多様なアプローチを試みる星のや東京。今までになかった東京の愉しみをもたらすリトリートに、今、世界の注目が集まっている。

[特集中] 東京の中心に天然温泉を備える日本旅館「星のや東京」徹底解剖

 京都の名工がつくりあげた庭を抜け、樹齢約300年の青森ヒバの扉を開けると広がる、畳廊下に格天井を掲げた厳かな空間。安らぎと機能性を兼ね備えた客室、宿泊客専用「お茶の間ラウンジ」、最上階の天然温泉からレストランまで、「星のや東京」を知り尽くせる。
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インタビュー2
匠の技が光る“佳いもの”に囲まれて 日本旅館の安らぎが待つ「星のや東京」

 日本を象徴する文化としての旅館を目指し、実現した星のや東京。ここでは施設や室礼のすみずみにまで、日本の伝統が息づく。星のや東京のもてなしの表れでもある「お茶の間ラウンジ」には、総支配人・菊池昌枝さんも深く関わってきた。
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星のや東京
所在地 東京都千代田区大手町1-9-1
電話番号 0570-073-066(星のや総合予約)
客室 全84室
チェックイン/アウト 15:00/12:00
料金 1泊1室 78,000円~(税・サ10%込、食事別)
交通 地下鉄大手町駅より徒歩2分 
URL http://hoshinoyatokyo.com/
星のやURL http://hoshinoya.com/

2016.07.27(水)
文=上保雅美
撮影=佐藤亘