参加ミュージシャンは超一流揃い

伊藤 福山雅治は流行りに流されるのではなく彼の世代の音楽をしっかりやっている印象。音楽に真剣に向かい合っているのはもちろんなんだけど、何よりも音楽にメッセージがある。“伝えたいことがある”っていう想いを感じます。きっとコンセプチャルな音楽の作り方をしているんでしょうね。「Soup」にもそれを感じます。良くも悪くも福山雅治らしい、20歳の女子に提供するべく作ったのではなく、自分の曲として作った印象ですね。

山口 僕はSIONというシンガーソングライターを15年くらいマネージメントしていたので、福山雅治さんにはお世話になりました。SIONを尊敬していると公言してくれていて、「SORRY BABY」という曲をカバーしています。SIONのデビュー20周年の時には、「SIONと福山雅治」名義で「たまには自分を褒めてやろう」という作品も発表しました。トップスターであることと、ミュージシャンであることをきちんと両立させながら、クリエイターとして新たな興味関心領域も開拓しているその姿勢は本当に素晴らしいと思います。

伊藤 結婚していろいろ騒がれたりもしましたが、アーティスト福山雅治はしっかりと地に足つけていると思います。

山口 「ましゃロス現象」にはびっくりしましたね。いまどき、40代の芸能人の結婚にショックを受けて会社を休むOLがたくさんいたって驚きです。

伊藤 藤原さくらの今までの曲を聴くと、インディーズ時代の作品はまだ“藤原さくらイズム”が定まっていない印象で、悪く言うと無駄にポップ。メジャーデビュー後はヤエル・ナイムを思わせるような世界観が出て、今の日本のシンガーにない味を出している。ただ「Soup」という曲が、いまの彼女にピッタリかというと違うように思う。もちろん宣伝販促的にいうと話題性たっぷりの仕掛けはできているので、これからのシンガーソングライターとしての彼女に注目したい!

山口 僕はこの曲を聴いて、改めてJポップの歴史について感慨を持ちました。打ち込み音楽全盛時代に、生バンドでのサウンド作りにこだわっていて、今回の参加ミュージシャンもそうそうたるメンバーです。

 アレンジャー井上鑑がピアノを、福山雅治自身がギターを弾き、ベース高水健司、ドラム山木秀夫、フィドル中西俊博、バンジョー有田純弘と紙資料にありましたが、音を聞くだけで、顔が浮かんでくるような超一流ミュージシャンですね。僕もお世話になった方々です。若い読者は驚くかもしれませんが、1970年代から80年代はスタジオミュージシャンという職業がちょっとした憧れの対象でした。ニューミュージックの時代は、才能あるシンガーソングライターと音楽性の高いアレンジャー、そして手練のミュージシャンがタッグを組んで、ヒット作を作っていました。

伊藤 オレがディレクターを始めたころは既にデジタル化がかなり進んでいましたから、スタジオでミュージシャンと接することは少なくなっていました。それでもテゴマスをプロデュースしたときは、かなりバンドサウンドにこだわっていたので、たくさんのスタジオミュージシャンに触れることができましたね。スタジオであーだこーだいいながらレコーディングして。今じゃもう、ディレクターやっていてもなかなか経験できないんじゃないかな。

山口 そこで生まれる化学反応を「スタジオ・マジック」と言いますが、最近は聞かなくなりましたね。それどころか、レコード会社のA&Rがブックレットでのミュージシャン・クレジットを面倒がるという話を聞いて、驚きました。本当ですか?

2016.05.30(月)
文=山口哲一、伊藤涼