コーヒーも美味しい「街の煎餅スタンド」

松﨑煎餅 松陰神社前店(東京・世田谷)
甘味:ハンドドリップコーヒー(ちょこっと瓦煎餅付)、クリームあんみつ、冷ぜんざい

東京に残る数少ない路面電車、世田谷線の松陰神社前の駅から徒歩1分。のれんのロゴは、2007年のブランドリニューアル以前に使われていたロゴを復刻したもの。

 1804年に芝・魚籃坂で創業した「松﨑煎餅」は、瓦煎餅「三味胴(しゃみどう)」に季節替わりの絵柄をつけた「江戸瓦 暦」を代表銘菓とするお煎餅屋さん。四季折々の江戸の風情を花鳥風月に織りまぜた「江戸瓦 暦」の絵柄は、眺めているうちに誰かに贈りたくなってくるような素敵さで、1865年に銀座に移った本店は、雰囲気も銀座らしく洒落ています。

 が、実は創業当初はもっと庶民的なお煎餅屋さんだったのだそう。そんな原点に戻るべく、地域密着型の新店として2016年4月9日にオープンしたのが「松﨑煎餅 松陰神社前店」。周囲は住宅街ですが、駅前の商店街には最近感度の高い飲食店が増えていて、なんだかポジティブな“気”が流れています。

商店街に面したガラス張りの店内は、向かって右手がショップで、左手がカフェスペース。ショップの棚には自宅用にぴったりの手軽なお煎餅から、瓦煎餅「江戸瓦 暦」などの贈答用セットまで、幅広い商品が並んでいます。

 商店街に面したガラス張りの店内にはカフェ(14席)が併設され、お昼はオーガニックフード・ケータリングユニット“MOMOE”がプロデュースするランチが近所の人に大好評。コーヒーとお煎餅でくつろぐなら、午後2時過ぎがちょうどよさそうです。

「ハンドドリップコーヒー(ちょこっと瓦煎餅付)」540円。ちょこっと添えられた瓦煎餅「久助」は、松﨑煎餅の工場で一枚一枚丁寧に焼かれたお煎餅「三味胴」が、絵を付ける前に割れたもの。

 お煎餅屋さんなのに日本茶ではなくコーヒー? と思うかもしれませんが、実は「松﨑煎餅」が創業時から作っているお煎餅は、小麦粉を使ったもの。江戸中期では、今のお米のお煎餅より小麦粉のお煎餅が一般的だったのだそうです。

 「瓦煎餅」や「たまご煎餅」と呼ばれるお煎餅は小麦粉と砂糖と卵で作られているため、ほろ苦いコーヒーとの相性が抜群。「松陰神社前店」では、コーヒーを注文すると「久助」という割れ煎餅が付いてきます。

 この「久助」は非売品で、瓦煎餅「三味胴」の割れたもののこと。お煎餅がきれいに焼けた100点の状態を「十」とするなら、割れてしまったお煎餅は「十」に満たないことから「九」、それが転じて「久助」。ネーミングのセンスが老舗らしいですね。ちなみに「三味胴」という名前の由来は、三味線の胴に似ていることから付けられたのだそうです。

 お煎餅に合わせるコーヒーは、社内でたくさんのテストを繰り返して選ばれたという、葉山・一色海岸近くのコーヒーショップ「THE FIVE BEANS」のハンドドリップコーヒー。苦味だけでなく穏やかな酸味のある味わいが、瓦煎餅の香ばしさとよく合います。

2016.05.08(日)
文・撮影=小松めぐみ