世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。

 第130回は、芹澤和美さんが最高の季節を迎えた静岡を満喫します。

今しか食べられない桜えびは駿河湾限定!

富士山とともに世界遺産に登録された三保松原は静岡市を代表する景勝地。

 すっかり暖かくなり、ぶらりと旅に出たくなった。「今しか食べられない旬の恵みを食べる」「風景が素敵なホテルに、ゆったりと泊まる」「暮らしている東京からのアクセスが至便で、移動の所要時間は1時間ほど」という条件で選んだ旅先は、静岡。

 年間を通して温暖な気候の静岡市は、春から初夏にかけてますます気持ちのいい風が吹いている。まさに今が旅頃なのだ。

富士川河川敷に天日干しされる桜えび。富士山をバックに一帯がピンク色に染まる風景は、春の風物詩。

 春に静岡を旅するなら、桜えびは欠かせない。ほんのりピンク色の見た目が春らしく、美肌効果のあるアスタキサンチンなどミネラルも豊富な旬の味覚だ。日本では駿河湾でしか獲ることができない桜えびの漁期は、春(3月下旬~6月初旬)と秋(10月下旬~12月下旬)のみに限定されている。解禁の今こそチャンスなのだ。

桜えびといえば、由比港。水揚げが許可されている由比港と大井川港あわせても、漁の許可証をもつ船は、わずか120隻しかないのだそう。

 2016年の春漁は、4月1日から6月7日まで。春漁の桜えびは産卵に備えて身が太り、色も鮮やかで、食欲を誘う。桜えびというと、「乾燥した小エビ」のイメージがあるけれど、静岡ではフレッシュなものを調理するのが基本。かき揚げや、釜の中で蒸した釜揚げ、醤油をちょっとつけて生で……というのがスタンダードな食べ方。由比港近くの食堂で、桜えびを使った料理を存分に味わった。

左:かき揚げ。サクサクとした食感と口に広がる甘みがたまらない。
右:プリプリの舌触りと濃厚な旨みを丸ごと楽しめる生(下)、味が凝縮した釜揚げ(上)。どちらも風味豊か。
ビュースポットの薩埵峠。「広重の浮世絵と同じ!」と思わず感動。由比港からはタクシーで10分ほど。

 江戸時代は東海道の宿場町だった由比には、近隣には歌川広重の浮世絵、「東海道五十三次」でも描かれた絶景もあるし、「静岡市東海道広重美術館」というユニークな浮世絵ミュージアムもある。

 東京から行くなら、あえて新幹線ではなく在来線で、車窓に海を眺めながらのんびり向かい、静岡手前の由比駅で途中下車、港で桜えび、というコースもいいかもしれない。

2016.05.03(火)
文・撮影=芹澤和美