南イタリア黄金時代の夢の跡を見る
床タイル芸術が圧巻!

1800年代のナポリの床タイルコレクション。

 地中海の深い青、大地を覆う青草色、みずみずしい果実のオレンジ色やレモン色、風にたなびく豊穣な小麦の稲穂をイメージさせるベージュのグラデーション……。陽光に輝く南イタリアの色彩で描いた床タイルには、今見てもなお新しいデザインが見つかります。

左:ポンペイ遺跡の色とデザインからインスピレーションを受けた1800年代の床タイルが敷かれたリビングには、同じく1800年代のナポリ産の床タイルを飾って。
右:ナポリの19世紀のタイルの部屋に置かれた同年代の椅子。生地も当時のまま。

 「デザインは、過去のアイデアをヒントにリデザインするケースが多いものです。たとえば今見てもモダンな幾何学模様が描かれた17世紀の床タイル。これも、もっと前の時代のデザインを参考に、300年以上前の片田舎で生み出されていたと想像すると面白いでしょう?」とピオ氏。紀元前から長きにわたり古代ギリシャや古代ローマ、ビザンチンやイスラムなど多様な文化の影響を受けた南イタリアには、当時からすでにアーティストの感性を刺激する素材にあふれていたのです。

最も古いコレクションは1400年代のもの。ラピスラズリを用いた青が鮮やか!

 また、鑑賞するための絵画ではなく、いわば足で踏みつける床にさえ高い芸術性を求め、贅を尽くしたデコレーションをほどこした当時の家主たちの財力と権力を想像すれば、封建社会のゆがみも見えてきます。その贅沢を支えた当時の庶民の血と汗と涙。床タイルには、足跡ではなく南イタリア黄金時代の夢の跡が残されているようでもあります。

16世紀後半~19世紀まで生産されていたブルジョの床タイル。「ビアンコ・スポルコ」と呼ばれる象牙色に近いベージュがかった白や青、濃い緑が特徴。

 スタンツェ・アル・ジェニオは、1500年代に南米に入植し「インディアス博物誌ならびに征服誌」などを記した歴史家ゴンザーロ・フェルナンデス・デ・オビエド・イ・バルデスのファミリーによって建設され、1700年代に名門貴族デッレ・トッレ家の所有となった館の貴族階(メインフロア)。生産地・年代別に、緻密に分類された床タイル・コレクションに加え、1700~1900年のオリジナルの天井画や床装飾、家具などのインテリアも必見です。

1800年代のサント・ステファノ・ディ・カマストラの床タイル。大正モダン風!?
古代ローマ時代の遺跡にあるモザイク画を模した1800年代ナポリ製の床タイル。

 「こんなところで暮らしているのか!」という驚きがまず先にくるのは否めませんが(笑)、南イタリアに息づいた文化と歴史をリアルに体験できる自宅兼プライベート美術館。いつかパレルモを訪れる機会があったら、ぜひ特別な時間と空間をご堪能あれ!

1800年代ナポリ製。シノワズリ―ブームを受けたアジア風のデザインも。

Stanze al Genio(スタンツェ・アル・ジェニオ)
所在地 Via Garibaldi, 11, Palermo
電話番号 340-0971561(年中無休・要予約・英語解説)
URL http://www.stanzealgenio.it/

岩田デノーラ砂和子
2001年よりイタリア在住。約10年間のローマ生活を経て、現在は憧れだったシチリアの州都パレルモ在住。イタリア専門コーディネート・通訳チームBuonprogetto主宰。イタリア関連著書多数。近著『おしゃべりのイタリア語』が絶賛発売中。イケメン犬「ボン先輩」と、やらかし系イタリア人の夫「ピンキー」との日々を綴る人気ブログ:ローマの平日シチリア便りもほぼ毎日更新中。

 

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文・撮影=岩田デノーラ砂和子